れですも色々

癌11 医者色々

担当医とチームを組む上司に当たる医師はどちらも誠心誠意してくれているのは、私にははっきり判った。

見た感じも話し方も一見した処ではとてもそうは見えなかったが。

お陰でチーム担当の病室は明るく、医師たちがどこにいるのかまで廊下に響く笑い声で判るほどだった。

やはり女性にとって、婦人科で手術を受けなくてはならない状況というのは精神的にへこむのが普通。

でも他のチーム担当の病室へ行って判ったが、私の担当医達は明るさでは飛び切りだったらしい。

私の運の強さはここら辺で使われているらしい(笑

術後の経過も医師たちが予想していたより悪化した私だが、癌手術そのものは極めて順調な経過。

ただ、麻酔医のミスと「想像を絶した」私の薬物アレルギーがあいまって、悪い方に転がったと思う。


一般病室に移ってすぐ、当の麻酔医がやってきた。

「今回は申し訳ありませんでした」

いや、こうして生きているから謝ってももらえるんだけど。
原因はなんですか。

「いえっ、それが・・・」

あのね。別にここで責めようと思っているんじゃあないの。
今回の事はそりゃあ少々腹は立つけど。
でも私みたいにそれなりの体力がある患者だから乗り切れたけどね、これがもっと弱った患者なら多分保てないよ。
人はね、痛くても死ぬんだよ。

「すみませんでした」

こういうミスはもうしないと本当に思うのなら、何でこうなってしまったかをちゃんと考え直してもらえますか。
そうしないとまた同じ事が起きる。

「はい」


急性肝炎になってしまったのは、薬物そのものが合わなかったのか、それとも術後麻酔がない状態で、痛み止めを多用せざるを得なかったせいなのか、切り分けできないくらいの要因が重なってしまった。

何事もなくてもややこしい体質なのに、麻酔医が輪をかけてしまったというのはあるだろう。


私は私で、本当は自分の体質に大問題があったけれど、この具合悪さを何かのせいにしたかったのかもしれない。


実際、悪循環の巣窟だったし。

胃下垂で内蔵全体が下に下がっている+何かの(多分薬物アレルギー)原因で下痢+腰痛が加わる+痛み止め=急性肝炎 かな。

頑固な下痢は収まらず、下痢止めを処方しようにもこれ以上薬を処方していいのかという悩みも医師にはあったろう。


インターン先生に、論文のテーマはアレルギー体質患者の術後管理なんかはどう?

と言ってみたが、担当医の
「いや、○○さんみたいな体質はアレルギーったってもごもご・・」

もごもごって(笑

でもこれからはこの手の患者は増えるよ。
もしその気になるんだったら協力する。


5年過ぎた今でも、背中の真ん中には2度の痛み止め針を刺した痕が小さなイボのようにぽっちりと盛り上がっている。

こんな痕がついた割には痛かったよなあと、今では苦笑いと共に思い出せる。


今だから話せるが、背中の痛み止め針が抜け急性肝炎になって具合が悪くなっていた頃、妹を呼んで何かあったら医療裁判を起こせと言ってあった。

大抵の医療裁判は患者が死亡もしくは重度の障害を持たない限り、成立しないのが現状だ。


私が担当医に告げたのは。
今回の事はきちんとカルテに記述する。
手術自体の麻酔薬代金は支払うが、痛み止めの分は払わない。

だった。

身内からは病院に正式に何か申し出た方がいいのではないかと言われたが、それは私が死んでからしてくれと断った。






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